冬の匂い

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「……っ」 反射的に、僕は手を引く。それを見た嵐君は、上目遣いに微笑んだ。 「いのりさんが、まだ青司君のものじゃないのなら」 にこっと、爽やかに笑って。 「いのりさんが誰かのものになるまで、おれが諦める必要はない。……ね?」 ね、じゃない。僕は目を閉じて、硝子の檻のような視線から、一時的に逃れた。 「大丈夫。いのりさんの嫌がることはしないから」 本当に、いい子だなと思う。嵐君を好きになったら楽しそうだな、とも思う。でも、僕は。きっと、最初から、初めて会ったときから。 訳もなく、彼に惹かれていた。 理由は後からついてきた。それがたとえ間違っていたとしても、もう構わない。
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