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すると彼が、困ったように笑った。
「泣くな」
言われて初めて、自分が泣いていることに気が付いた。なかったことにするために、慌てて涙を指で拭く。
「泣いて、ないです……」
「はいはい」
彼にぎゅっと抱き締められて、安心する。自分がこんなにも単純だとは思わなかった。彼は着衣の乱れを正すと、ベッドを離れ、「はい」とタオルを僕に差し出した。
「え、あの」
「今夜は、ここまで」
「だって……」
その先を言えずに、僕は口ごもった。そんな催促をするような言葉、どんな顔をして言ったらいいか分からない。
「無理するな」
無理、だったのだろうか。
「泣いて震えてるやつに、手え出す気はない」
「だから、泣いてないです」
彼は否定も肯定もしなかった。
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