42人が本棚に入れています
本棚に追加
/22ページ
身体だけでも、と思っていた。さっきまでは。本当はそうじゃない。全部ほしい。──混乱が、消えない。
「風呂、入るか」
「え? あ、はい」
「先、入っていいよ」
「あの、自分は後でも……」
「いいから」
家主がそう言うなら、いいか。
「分かりました」
「ああ、そうだ、いのり」
「はい?」
「次の土曜日だけど」
そのフレーズに、嫌な予感がした。
「用事ができた。ここには来なくていい」
そうか、僕は。これを、恐れてたんだ。
「……どんな、用事ですか?」
普通を装って、僕は彼に尋ねた。少し眉根を寄せて、彼は答える。
「人と、会う」
狩野氏の声が、また脳裏をよぎって。僕はもう、何も考えたくないと、そう思った。
最初のコメントを投稿しよう!