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葉を落とし、枯れ木のようにすら見える桜の木々を、僕は何となく眺めていた。駅から大学までの道には桜の木が並び、春になれば歩道が一面桜色に染まる。入学式の日、初めてそれを見たときには、毎年この光景が見られるのかとわくわくしたものだ。
そんなふうに次の季節のことを考えながら大学の構内へと入っていくと、横から友人に呼び止められた。
「祈莉」
「小野……」
小野に会うのは、神谷さんが大学に来た日以来だった。
「どうだった?」
「何が?」
唐突過ぎて訳が分からない。首を傾げた僕に、小野は言った。
「だから、初恋の相手と」
「……はい?」
「あのときここに来てたのが、そうなんだろ?」
頭の中で、言葉を全て繋ぎ合わせて。
「……っ!」
声にならない声で、僕は叫んだ。
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