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友達に一声かけてから、こちらへと駆け寄ってくる嵐君。嵐君の見た目なら、大学生だと言っても通用しそうな気がする。
こんにちは、と嵐君は笑みを見せた。
「あー、そういえば大学ここって言ってたっけ」
「う、うん。今日は何? 見学か何か?」
「そう」
イレギュラーな出会いに、何だか学校に迷い込んだわんこでも見ているような気分になる。思いがけないところで癒されていると、嵐君がすっと瞳を細めた。
「そうだ」
「何?」
「仲直りしたんだ?」
青司君と、と小さく補足して嵐君が小首を傾げる。
数日間、僕は神谷さんのマンションに行かなかった。同じ日数、嵐君にも会っていない。事の経緯は彼から聞いたのかもしれないが、自分からはまだ何も話せていなかった。
「えっと、うん。……ごめん」
「何とかなったなら、別にいいけど。でも」
「?」
無邪気な笑顔から一転、あのひとが見せるような、艶めいた、とろりとした蜜のような微笑み。
「青司君と上手く行かないときは、おれの方に来てくれたらいいのに。次に何かあったら、そうして?」
僕は気圧されながら頷いた。
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