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音を聞いて後ろの車両に移動したのは良いものの、重大な問題に突き付けられた。
……カナタくんが、席に座っているのだ。
これじゃあ私タックル出来ないじゃない! 困り果てた私は、彼の目の前でカバディすることしか出来なかった。
そしたら、私があまりにマナー違反なのか、音漏れしている乗客にまで睨まれた。
だって、だってしょうがないじゃない……だってカナタくんが、タックルさせてくれないんだもの……! そうなったらカバディするしかないじゃない!!
「ねぇ」
今日初めての、カナタくんの声だった。カナタくんは眼鏡をくいっと持ち上げて私を見上げると、空いていたもう片方手で隣の席に手をやった。
「隣、座れば」
「……座って良いの!?」
「ええ、まぁ。ここでずっとカバディやられるよりマシですから」
カナタくんの隣に座れた。こんなの、クラスの、いいや、学校中の女子が経験したことないはず。私はたまらなく嬉しく感じた。
足元をそわそわ動かしながら、私は横目でカナタくんを見る。すると、カナタくんも横目で私を見て、視線がぴったり合ってしまった。
「ゆきはらさんは、どうしてこの地下鉄に?」
「君にタックルする為だよ」
「……そんなことの為に、わざわざ大通りから真駒内まで行くのですか? 今日、学校があるのに」
「え? これ真駒内まで行くの?」
二人の間に沈黙が流れた。さっきまで、あんなにカバディしてたのに。
「……そうなんだ。通りで何時もと路線違ったんだね」
「君はそれで納得が出来たのか……!?」
「うん。私は君にパン加えながらタックルしたい。それだけだから」
「そこまで言えてるなら、もう告白出来る気がするんだけどな……それともそれとは別感情なのかな……」
カナタくんがブツブツと何かしゃべっている間、私は歯の裏についてしまったパンが気になって下で舐め続けていた。が、一向に離れる気配なし。ちなみに、タックル出来ない今は、歯型のついたパンをガッツリ手に持っている。
それからどれくらい経っただろうか。その間、カナタくんはかっこいい感じの英文の本を読んで、私は時々立って、カバディしながらそれを邪魔した。うざがられた。当然と言えば当然である。
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