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「父さん、此処最近酒癖が悪くなって、こんな風に私を傷つけるようになりまして」
カナタくんが手を動かすので、私は片手を離した。すると、カナタくんは右腕の袖をめくりあげる。手はまっ赤に腫れ上がっていた。
「別に、それが嫌なわけじゃないんです。それより、父さんがこんなになってしまったのも、母さんを失くしたショックの中、一人で育てた。その精神的に来てしまったんじゃないかと思って。私がいなかったら、もう少し楽させてあげられたんじゃ無いかと思って。ふと……消えたくなったんです」
「そっか……でもさ、それでお母さんが喜ぶと思ってる?」
「……と、言いますと」
「お母さんは、死ぬ気で君を産んだんだよ。言わばね、お母さんにとって、カナタくんは自分の半分、分身だったんだと思うよ。その半分の君が、幸せにならなくてどうするの?」
カナタくんは黙ってしまった。そして、ゆっくりと手を胸に当て、静かに涙を零した。その姿は、天使の子のように清廉で、美しかった。
「お父さんのところに帰りたく無いなら、私の家泊まってっても良いし、それが嫌なら先生に相談しよう? みんながいれば、お父さんだってきっと大丈夫」
「有難う……ありがとう……」
彼の涙が止まるまで、私は彼の前でカバディをし続けた。やっぱり、そこは迷惑がられた。
・ ・ ・
と言うわけで、二人で地下鉄に乗って席についたその後、私はハッと気づく。
「タックルするの忘れた!!」
ハッとしている私の隣で、カナタくんはくすくすと微笑む。その顔も天使の子……!!
「いいや、タックルは十分受けたよ」
「え?」
「君の愛の……いいや、優しさのタックルをね」
「そう? じゃあ、このパンは食べちゃおう」
「ちょっと待って下さい」
彼はカバンからマヨネーズを取り出すと、それを私の干からびた食パンの上にかける。それも、ハートのマークを添えて。
「どうぞ、召し上がれ」
新たに始まりそうな恋の予感はさておき、私は彼に一言。
「マヨラーなんだね」
「今そこ言います……?」
(了)
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