苦手なもの 睦月純也

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苦手なもの 睦月純也

「すんません余りにも喉乾いて先はじめちゃいました」 ジョッキを上げて見せた。 「全然いーよ」 相坂さんがカウンターの席を引いて腰掛ける。 「お疲れ。待ち合わせの相手ってコータか」 「菊ちゃん、久しぶり」 「ビールでいーか?」 「お願い」 そのやりとりを見てポカンとする。 「かなりの常連なんすね」 相坂さんが笑う。 「ま、今回久々になっちゃったけど友達の店だしね」 ビールで乾杯した。 お通しにオクラと何かが和えてあるものが出て来た。 「ここは何食べても美味しいよ」 則本さんが優しい顔で俺を見て言う。 しかし俺はお通しを見て箸をつけるか戸惑った。 お、オクラ……。 俺………ネバネバ系が苦手。 「ん、どした?」 何食べても上手いと聞いたからには、苦手とは言えず。 ノロノロと箸袋から箸を取り出し割る。 せめてマヨでもドッサリ…… 不意に、オクラの小鉢の横に、店主からもう一つ小鉢を置かれた。 「ひょっとしてオクラ苦手なんじゃない?よかったらこっち食べなよ」 びっくりした。 「え?凄いね菊ちゃん、良く気づいたね」 「苦手な食材前にした小学生みたいな顔してた」 「まじか……。顔に出てたかなぁ」 「やっぱ苦手なんだ!」 相坂さんと店主に笑われてしまった。 小鉢に目を落とすと、トマトになにか詰め物がしてある。 料理なんて全然しないし、ネバネバ以外は食べれたら何でも良い俺にはコレが何なのか解らないが、とりあえず箸でつまみ上げて食べる。 「うまっ…」 「菊ちゃん、俺も同じの食べたいっ!」 店主は"あいよ~"と言って笑った。
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