ギャングとおつかい

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 昼間であるにも関わらず、薄暗い部屋。窓という窓にブラインドがかかっており、周囲から隔絶されている。  ジャンは背筋を常より正しながら、部屋の空気を少しでも震わせないようにする気持ちで、奥へと歩を進めた。その後ろを無造作に歩く相棒の足音も、この部屋では厚手の絨毯が柔らかく受け止めてくれる。  ジャンが足を止めた先には、豪奢な木造の机があった。黒い革張りの椅子に、男が深く腰かけている姿が、背後の窓から漏れる逆光で、浮かび上がっている。  スキンヘッドに、太い眉が印象的な男は、まだ四十代半ばだったはずだ。目尻が上がり眼光が鋭いため、ちらりと視線を向けられただけで、今すぐ殺されるのではないかという気持ちになる。彼こそが、ジャンのボスであり、この周辺一帯のギャングを仕切るクリス・ベインその人だ。  クリスは太い葉巻を指に挟みながら、「ジャン、ロッド」と二人の名を、呟くような軽さで呼んだ。勿論、それを聞き逃すなど許されない。 「はい! お呼びでしょうか」  ジャンがはきはきと訊ねると、クリスは少々うるさそうに眉をしかめながら「お前らに仕事だ」と唸った。 「こいつを見ろ」
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