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そう、クリスが取り出したのは一枚の写真だった。黒髪の、まだあどけない少女だ。どこを見ているのか、大きな黒い目は視線を正面から外れている。おそらく、隠し撮りなのだろう。
「……これは?」
ジャンが訊ねるとクリスは「ふん」と鼻を鳴らし、「可愛い娘だ……。そう思わないか?」とジャンに話をふってきた。
「えぇ、確かに顔立ちが整ってますね」
その言葉にクリスはにやりとし、写真をテーブルの上に置いた。
「お前たちの仕事は、だ。この娘を俺のもとに連れてくることだ」
「この娘を……?」
伺うようにそっと繰り返すと、クリスの視線がぎろりととんできた。思わず身を固くするが、罵声ではなく案外に冷静な声が、説明を続けた。
「昔、この俺に面と向かって逆らった奴がいてな。行方を眩ましてからもずっと探させはしてたんだが、最近になって……そいつが死んだことが分かった。このガキは、そいつの娘らしい」
余程、その逆らったという相手を許せないでいるのだろう。ただでさて強面の顔が、怒りを堪えるかのように小刻みに歪むのを見て、ジャンは震えた。
「奴が死んでからは、娘は娼館にいるそうだ。お前たちの仕事はその娼館に行って、娘を買い取ってくることだ。子どもの使いみたいなもんだ。ポンコツなお前たちでも充分に勤まるだろう」
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