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彼を呼び出したのは、次の日の放課後のことだった。
場所は地下鉄M駅で、ぼくは約束の時間よりも早く待ちかまえていた。
「空木、こんな場所に呼び出してなんの用だ?」
声がしたので振り向くと、そこにスーツ姿の男が立っていた。
うちの高校の教師である風祭だ。
背が高く端正な相貌なので、既婚者なのに女子に人気が高い。
「すみません風祭先生、実は雪ノ下アヤカのことで相談がありまして」
いきなり切りだすと、風祭の表情がこわばる。
「雪ノ下は先生たちも必死に捜しているんだよ」
嘘だ。
アヤカの母が亡くなり義理の父が彼女を疎んじているから、ろくに捜索願を出さずに放置しているとの噂だ。
どうせ東京に家出したのだろうという考えしかないから、大人はまじめに取り合おうとしないのだ。
「空木、雪ノ下のことでなにか知っているのか?」
風祭が神妙な面持ちで訊いてきた。
その偽善に満ちた表情に、めまいのような怒りが湧く。
アヤカの悪い噂は、この風祭と付き合っているということだ。
既婚者であり教職者である風祭の体面上、アヤカが失踪したことで交際の事実を隠蔽しようとした。
学園側が強制的に、生徒のLINE履歴まで削除させたんだ。
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