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「彼女を知っています」
「……それは本当なのか?」
「なぜ嘘だと思うのですか?」
逆に問いを返すと、風祭が訝しむように眼を細める。
「お前みたいなやつが彼女の知り合いだと思えない」
棘のある言葉にひるみ、まばたきした瞬間だった。
どこからともなく一陣の冷風が吹きつけ、首の後ろの産毛がぞわりと逆立つ。
驚いて振り向くと、そこにアヤカの幻姿が見えた。
長い黒髪を垂らして、周囲の喧噪とかけ離れたように茫と立っている。
途端に構内が灰色に滲んだ。
「どうした空木?」
ぼくの緊張した表情を見て取ったのか、風祭がうわずった声をあげた。
当の本人も心なしか、表情に蒼白の色が差している。
だがアヤカの幻姿が見えないのか、なぜ自分が悪寒を感じているのか戸惑っている様子だ。
「先生には見えないのですか?」
「な、なにが見えるというんだ!?」
どうやら本当に彼女の姿が見えないらしい。
アヤカがすぐそこにいるのに、キョロキョロとあらぬ方向に眼を走らせていた。
ぼくは驚いて眼をまたたいていると、その度にアヤカがコマ送りごとく風祭に近づいていく。
名状しがたい戦慄が、ぞくぞくっと背中から頭に駆けぬけた。
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