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「彼女がそこにいます」
「彼女とは誰だ? 彼女とは誰なんだッ!?」
もう風祭の目の前まで近づいている。
「彼女がほら、そこまで近づいています」
「彼女とは誰のことだ? これはなんの冗談だッ!?」
彼女の息づかいが聞こえるのか、狂ったように辺りを見渡している。
「アヤカさんが、もう目の前に」
「アヤカ? アヤカだと!? そんな馬鹿なッ! あいつがここにいるはずがない!!」
眼前にアヤカがいるのに、風祭が半狂乱で声を張りあげ否定した。
「あいつが離婚しろと言うからッ! あいつが妊娠するからッ! だから仕方なかったんだッ!!」
その瞬間、アヤカがうつむいていた顔を上げた。
ふるふると震えながら両の手を、目の前の男の顔に近づけて口ずさむ。
「……せめて一緒に…………」
その声が風祭にも聞こえたのか、びくんっと全身を震わせた。
「そこにアマリリスが──」
ぼくはそう言いかけた瞬間、
「うわあああああぁぁぁぁ──!!」
構内中に響くような悲鳴があがった。
風祭が奇声をあげ足をもつれさせながら、ものすごい形相で逃げだしたのだ。
その後ろ姿を眼で追おうとしたときだ。
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