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ふあぁんっ!!──
また列車の警笛が空気を震わせた。
今度ばかりは、心臓ばかりか全身がおののいた。
ふあぁんっ!! ふあぁんっ!!──
なにかが近づいてきた。
流動する風がそれを告げている。
腕時計に眼を落とすと、時計の針が午後4時44分を指していた。
ふあぁんっ!!──
大きく警笛が鳴り響いた刹那、世界が暗転する。
突如として、列車の車内にいる自分に気づいた。
急に周囲の冷気が迫って体が震える。
ふいに恐怖が棘となって、内側から刺すような感覚に襲われた。
「そんな馬鹿な……」
ぼくはぎゅっと眼を閉じると、目蓋の裏側に血が慌しく脈打つのを見た。
列車が轟々と走っている。
地下鉄を疾走して、深遠の奥底へと降りていく。
「この列車は……?」
列車の空気はひどく澱んでいた。黒い気配がひしめいている。
ふと座席に眼をやると、何人もの乗客が座っているのが見えた。
だが乗客の姿を仔細に観察した途端、心臓に杭を打たれたような衝撃が走った。
「ひいっ……!?」
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