午後4時44分、精霊の囁き

16/18
前へ
/18ページ
次へ
「いけませんよ!」 凜とした声が意識を叩いた。 シャーマンの少女タユナの声だ。 背後に眼を動かすと、紅い視界の端にタユナとナライが映った。 「トウマを連れて行くのは許しません!」 タユナが昂然と歩を進めると、座席の屍者がぞろぞろと立ちはだかった。 「ナライ、お願い」 「任せろ」 ナライが猛々しく牙を剥くと、天を衝くようにオオカミの遠吠えをはなつ。 それでも邪魔をする屍者に、白い颶風となって襲いかかった。 それを見たアヤカが狼狽えたように力を弱める。 そこにタユナが手探りで近づいてきた。 「あなたの無念は受け取りました。もういいのですよ」 白髪の少女がそう言って、そっとアヤカの腕に触れた。その瞬間、アヤカの腕の力が抜ける。 「もうお休みなさい」 タユナの言葉に、黒髪の少女がはっとして離れた。 ぼくは激しく咳きこみながら、アヤカを振り仰いだ。 「アヤカさん……」 黒髪の少女の唇が、わずかに解けたように見えた。 それはまるでアマリリスの花が咲いたように。 ぼくはたしかに花の香りを嗅いだ気がした。 そしてアヤカが幻のように消えた。 アマリリスの香りを残して──。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加