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「いけませんよ!」
凜とした声が意識を叩いた。
シャーマンの少女タユナの声だ。
背後に眼を動かすと、紅い視界の端にタユナとナライが映った。
「トウマを連れて行くのは許しません!」
タユナが昂然と歩を進めると、座席の屍者がぞろぞろと立ちはだかった。
「ナライ、お願い」
「任せろ」
ナライが猛々しく牙を剥くと、天を衝くようにオオカミの遠吠えをはなつ。
それでも邪魔をする屍者に、白い颶風となって襲いかかった。
それを見たアヤカが狼狽えたように力を弱める。
そこにタユナが手探りで近づいてきた。
「あなたの無念は受け取りました。もういいのですよ」
白髪の少女がそう言って、そっとアヤカの腕に触れた。その瞬間、アヤカの腕の力が抜ける。
「もうお休みなさい」
タユナの言葉に、黒髪の少女がはっとして離れた。
ぼくは激しく咳きこみながら、アヤカを振り仰いだ。
「アヤカさん……」
黒髪の少女の唇が、わずかに解けたように見えた。
それはまるでアマリリスの花が咲いたように。
ぼくはたしかに花の香りを嗅いだ気がした。
そしてアヤカが幻のように消えた。
アマリリスの香りを残して──。
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