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「なにをしているの?」
気づいたときには言葉がこぼれていた。
「……あなた誰?」
アマリリスの花のように濃い紅色の唇が、やさしく線を曲げて問いを返してきた。
「ぼくは空木(うつぎ)トウマだよ。き、きみは雪ノ下アヤカさんだよね」
そう言いきったときに「しまった」と後悔する。
見ず知らずの男が自分を知っていると思われたら、きっと気味悪がられ敬遠されると考えたからだ。
「そう……あなた投稿サイトを読んでるの?」
少女というには憚れる大人びた美貌に陰がさした。
「ぼくも小説を投稿してるんだよ。もっとも、誰も読んでくれない底辺だけどね」
「好きで書いていれば関係ないわ」
大人びた表情で言われて、頬が地獄並みに火照ってた。
彼女は自分の才能をひけらかすことなく、また駅の壁を俯きながら眺めている。
顔の半分をおおうほどの長い黒髪がさらりと垂れた。
「もしかしたら、幻の1番線……?」
ぼくはおそるおそる訊いた。
この地下鉄M駅には1番線が無い。
2番線の反対側に本来あるはずの場所に線路は無く、ホームの延長のように通路と壁があるだけなのだ。
どうやらM駅が開業した当時、諸問題の関係から1番線は「廃止」に追いこまれたらしい。
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