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そのように不明瞭な経緯からか、午後4時44分になると幻の1番線に異界行きの列車がやってくるという都市伝説があるのだ。
いわゆる幽霊列車の噂──だけど、ぼくは子どもじみた話だと心中で一笑していた。幽霊なんて存在するはずがないじゃないか。
「あなたにも見えるのかしら」
アヤカが俯いたまま紅の唇を動かした。
「な、なにが見えるというの?」
「そう……気にしないで」
アヤカがそっと言葉をおくと、きびすを返して人混みに消えてしまった。
ぼくは淋しさの残り香を嗅ぐように、ただ茫然と立ち尽くすしかすべがなかった。
その夜は憧れの人に逢えた喜びでいっぱいだった。
彼女の名は、悪い噂で聞き及んでいた。
学園でも孤独な美貌は目を引いたから、彼女を貶める質の悪い噂だと、ぼくはてんで信じていない。
孤独な創作活動の仲間だと勝手に思いこみ、その彼女と少しでも話せると心を踊らせた。
それでも悪い噂がアヤカに影を落としていることが、ふとした拍子に脳裡をよぎる。
千の希望を泳ぎ、千の失望に沈んだ。
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