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「あなたがかかわることではありませんよ」
にべもなく言われて、ちょっとたじろいだ。
「その犬、名前はなんていうの?」
言葉繋ぎに訊くと、少女ははじめて眼をまたたいた。
「ナライが見えるのですか?」
「うん、変わった名前だね」
いっぱいの愛想笑いで答えると、
「ほほう。この者、我が見えるらしいな」
鉛のような声が割って入った。
だが辺りを見渡しても、それらしき男はいなかった。
「我はナライ。タユナを守護する精霊だ」
また声がした。
前以上に眼をまたたくと、声のしたほうを見入った。
大きな白い犬が、にっと逞しい犬歯を覗かせる。笑ったみたいだ。
その灰色の眼は、たしかに叡智の光を宿していた。
「犬が喋った……!?」
「犬ではありませんよ。ナライはニホンオオカミですから」
「日本にオオカミっていたの?」
「これだから人間は度しがたい。わずか100年前のことを忘却の彼方に押しやるのだからな」
ナライが溜め息をついた。
「き、きみたちはいったい!?」
「わたしはシャーマン。大いなる存在の声を聞き目に見えぬ世界との橋渡しをする、精霊に選ばれし者」
少女が凜とした声で告げた。
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