第一話 彼の秘密

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「そろそろ帰りましょうか。明日、会議なんですよね?」 はっ クマのことなんて初めの数秒で、そのあとは新名くんの顔にただただ見惚れてしまっていた。 このイケメン…“公開凶器”だ。 ”君子危うきに近寄らず”。 言い換えるなければ”君子イケメンに近寄らず”。 「そ、そうね。今日は本当にありがとう!助かりました。新名くん、本当に優しくて、良い人だね」 少し営業マンっぽく頭を深々と下げ、体を戻して現時点での最大力の笑顔を作ると、何故か彼は少し悲しそうに、そして何か諦めているかのように眉が若干下がり気味のままニコッと笑ってみせた。 「そんなことないですよ。役に立ててよかったです。……あー……じゃ、先に出ますね」 「……あ………うん」 一緒に会社を出て…まではいかないか。 恐らく向こうは車通勤だし。 それか今何か気に障るようなことをしたから先に帰っちゃうってことなのかな。 気に障ることって……… 何? 落ち込んだり考え込んだりしながらデスクを片づけていると、入口のドアノブに手をかけた彼が振り返った。 「寿さん!」 「…は、はい?」 「明日!会議、成功したら今度は本当にビール、飲みに行きましょうか!」 「え…え!…あ、うん、うん!」 「ははっ。じゃ、お疲れ様です」 「うん!お疲れ様!」 疲れていても、相手が誰でも、いつでもどこでも誰もが知っている彼の爽やかマイナスイオンスマイルを受け止めながら、ドアが閉まるその瞬間まで私はただ棒のように立って見送っていた。 ガチャン。
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