第一話 彼の秘密

12/21
前へ
/21ページ
次へ
閉まる音がなると同時に持っていたお茶のペットボトルを強く握りしめ、ぐいっと流し込んだ。 飲みに行きましょうって…。 飲みに行きましょうって言った。 誘ってくれた、飲みに。 え、この流れって…二人で、だよね…? 絶対そうだよね。 他の社員と、なんて言ってないもんね? 嬉しい! あたしを誘ってくれた。 誘ってくれた! 単純だな、あたし。 社交辞令かもしれないのに、明日の会議はめいっぱい頑張ろうと奮起しているし、 明日は買ったばかりの服を卸そうと陽気になっているし、 そんなことを鼻歌をうたいながらウサギのように跳んで帰宅しているし、 急に女子力を上げようと夕食を作ってみたり、 トリートメントで終わらずヘアパックをして半身浴したりするし、 良い香りのボディクリームを乾いてカピカピの肌にふんだんに塗りつけるし、 鼻息を荒げながらベッドにジャンプ、からのダイブ。 慣れないことを、しかも残業した今日に一気に総なめするもんだから時刻はもう午前3時前。 身体はバキバキで思ったように動かないほど疲れているのに、瞼は全く重たくならない。 むしろ開眼状態だった。 「明日…。明日に誘う…。会議終わりに誘う…。絶対誘う…」 会議は明日朝の9時半から1時間の予定。 それなら営業課MTGをして11時から営業に出ていく新名くんに会える。 そこで、言うんだ、寿蓮華(ことぶきれんげ)! 「会議、成功したよ。昨日言ってた飲み会を今日できないかな?」 ブツブツ呪文のように口に出して予習する。 上目遣いに首を横にかしげる。 脇はきゅって締めて、 少しシャボン系の香水をつけておこう。 「カイギセイコウシタヨキノウイッテタノミカイヲキョウデキナイカナ…カイギセイコウ…――――」
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加