9人が本棚に入れています
本棚に追加
「では、〇〇会社とのコラボ商品は3班ともこのまま企画を進めてください。寿さん率いるランジェリー班はもう一度生地の発注スパンを確認して、再度サンプルを組みなおしてください。次の会議は2日後の9時半から始めます。以上、お疲れ様でした」
ガタガタ…
配布していたサンプルを集めていると前屈みになって突き出たお尻を誰かが軽快な音を鳴らしてはたいた。
「ちょっ…!美幸!」
「ごめんごめん、そこにお尻があったからね、お疲れ様」
ぞろぞろと部屋を出ていく社員を他所に、彼女は一度片づけた椅子に腰深く座った。
彼女は菅野美幸。
私より2つ年上の29歳。
快眠にこだわった流通事業会社、「快眠Life株式会社」の商品開発課で働く同期である。
一度も染めたことがないというツヤツヤとした黒髪ストレートをピッチリと一つにまとめ、厚めの唇に塗られた色気たっぷりの真っ赤なルージュが印象的である。
基本的に私服通勤可能なのだが毎日アイロンしたてのかっちりスーツで、彼女曰く前職までずっと営業だったからかスーツじゃないと仕事モードに切り替わらない…らしい。
「ほんっと…今回のコラボ企画も急だっての~。まだこの前のアロマ商品のやつだって進行途中なのにさ~。ま、今回は某!有名!下着ブランドとのコラボだからね~。そりゃ企画部長も気合入ってるわな~」
分厚い資料を汚いゴミでも持つかのように、親指と人差し指でぷらぷらと持ち上げて彼女は言った。
「レンレン今まで寝具ばっかりだったから、今回初の下着でてんてこ舞いなんじゃない~?」
「もう…レンレンって言わないでってば。…まぁね。枕を作るのとは全然違うけど、新しいことをするのは楽しいよ」
「タフだね~レンレン。あたしなんか企画あげてもあげてもボツ続きでイライラ最高潮だわ~。そもそも快眠ってそんなに大事か~?とか思ってきちゃってたり」
椅子の背もたれをギコギコ鳴らしながら彼女も大きくため息をついた。
どうやら飲みの場で彼女の泣き上戸の被害になるのはそう遠くはないようだ。
「快眠なんてね~。だ~いすきな恋人に抱きしめられながら寝たら一発じゃない。グッズとかいらないのよ、そもそも」
「…?…あれ、美幸この前…」
「先週別れましたけど何か!?」
どうやら地雷を踏んでしまった私は、背中越しに罵声を浴びながらそそくさと部屋から逃げた。
最初のコメントを投稿しよう!