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「お疲れ様でしたー」
「お先に失礼しまーす」
私はノートパソコンに一点集中で、帰っていく後輩を優しく見送っている暇は持ち備えていなかった。
同じくして帰ろうと片付けをしていた隣のデスクの美幸が、こちらへと首をひょいと見せる。
「あれ、レンレン残業?」
「……。そう」
「”レンレン”の呼び方にも突っ込めないほど切羽詰まってんだね…。ちぇ~今日飲みに行きたかったのにな~」
「ごめん美幸、また今度でお願い」
「りょーかい!じゃ、お先~」
まるで退職するかのように綺麗に整理整頓されたデスクから、すくっと立ち上がり私の背中を軽く叩いてから彼女は事務所を出て行った。
そんな背中を視界に入れることもなく、私は瞬きも忘れてしまっているかの如く、血眼で集中していた。
カタカタカタカタ…
定時退社から2時間半ほど過ぎた今となっては、事務所に居残っているのは自分だけになっていた。
BGMも無い広く静かな部屋で自分のタイピング音だけが響く。
タイピング音をなくしてしまうと、掛け時計の秒針音が聞こえてしまい、それが自分を追い詰めてしまう。
カタカタカタカタ…
カタカタ…カチッカチッ…
「ああ…終わらない…ううう…。明日なのに…ううう。お腹すいたお腹すいた…」
一人で気を緩めているのか、それとも静かになるのが嫌なのか、自然と愚痴がこぼれてしまう。
集中力も長くは続かず、カロリーと時間短縮を気にして夕ご飯をどうするかばかり考えていた。
「手伝いましょうか?」
え?
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