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「え?」
バッと大袈裟以上に振り返ると、数メートル先の事務所入口で新名くんが立っていた。
「にっ…!!」
本当に湯気が出たのかと思うくらい、私の顔はみるみる火照っていった。
冷や汗なのか熱くて汗が出ているのかはわからないが、とりあえず身体はびっしょり汗ばんでいると感じた。
恥ずかしい!
独り言を聞かれたことと、
その独り言が駄々っ子のようにブーブー文句を言っていたことと、
それを聞いた人が新名くんだということ。
三連苦である。
三連恥と命名したいくらいである。
突然の驚きと恥ずかしさで一時停止をしてしまっていた自分の内心を察知したのか、ちょっと申し訳ない顔で彼は笑みをこぼした。
「驚かせてしまったみたいですね、すみません」
硬直した身体が彼の笑顔で雪解けたようだった。
すぐさま我に返る。
口も開いたままだったようで、ぎゅっと唇をしめる。
「う、ううん。大丈夫。……あ…今戻り?」
「そうです。午後の商談が早く終わったので、それで」
事務所の入口から近い商品開発課を通り過ぎ、隣の隣の低いパーテーションの囲いを越えた所にある、営業課の自分のデスクに秋用の上着と重たそうな鞄を置いて、彼は少しネクタイを緩めながら言った。
「そ、そっか…」
元々挨拶くらいで仲も深まっていない者同士、二人きりになってしまうとどんな話題を持ち掛ければ良いのかわからない。
それどころか残業に追われている現状で、フランクな会話も持ち掛ける余裕が無かった。
気まずいのか緊張なのか、ドキドキしていて先ほどの集中力が途切れてしまったようだ。
一度落ち着いてコーヒーを飲もうというのと、気まずい空気をどうにか打破したいがために給湯室へと立ち上がった瞬間、すぐ近くまで彼が接近していたことにまたも驚いてしまった。
「わっ!」
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