第一話 彼の秘密

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「お、終わったあぁ~!!」 肩も腰もガチガチ痛くて目の奥も疲労感があって、化粧も型崩れしているだろうという確証があったけれども、それより達成感からの高揚が絶えなかった。 ぐっと伸ばした両手を下げたついでに左腕に目をやる。 時計の針は長針が42。 短針は10を指していた。 現在の時刻を認識してすぐに待ってましたと言わんばかりに疲労感と睡魔が襲ってきた。 やれやれ…この歳でこの時間までの残業は辛い。 身体的に苦痛だし、そしてもうそこまで元気でない自分の年齢を実感して精神的にも苦痛である。 これはすぐ家に戻ってベッドにダイブしたらそのまま朝を迎えるコースだ。 それで良いと現状思えてしまうが私のプライドと肌が許してくれない。 すぐにお風呂のスイッチをいれて、お風呂に浸かりながら、コンビニのおにぎりかパンを詰め込んで、スキンケアはしっかりして寝よう。 それなら大丈夫。よしそれだ。 目を閉じこの後のスケジュールを頷きながら満足していると、 「はい、お疲れ様です」 目の前に冷たいお茶のペットボトルが差し出されていた。 「あ、ありがとう!」 あれから新名くんは、ずっと隣で助けてくれていた。 何度も「もう一人で大丈夫だよ」と断ったのにその度に「手伝いたいから居るだけです。ここで帰っちゃ薄情ですよ」と全く気にしてないという笑顔を見せてくれていた。 資料内容とかレイアウトとかも全部横でアドバイスをしてくれ、手作りのサンプル商品も手直ししてくれた。 …まぁ私より断然器用で手際がよくて家庭科でいうと満点評価だったので、そこはさすがに遠慮せず有難いと感謝した。 二人で並んだ椅子に深く腰掛け、ぐいっとお茶を乾ききった喉に潤いを与えた。
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