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ともる灯りに人生を見る、たとえ如何に儚く在っても。なんてのは少々、詩情的に過ぎるかな。
━━吊るされる提灯の灯り、賑わう屋台の灯り。喧騒の中に見えるある種の証明は、あたら人間性という奴に満ちている。
それらは、まったく心地良い楽器として映る。喧しくとも、わたしは縁石に腰掛けて耳を傾けるのだ。
ヒトの生活、ヒトの日常。それらは正しい位置を通過していく。これからどうしようとか、今日は楽しかったねとか、明日は何しようか、とか。
文法として正しい、というべきか。それがどれほどグロテスクな謂いなのか、わたしは知悉しているつもりだけど。
「うん、まぁ、良いんじゃないかな」
祭りとはそういうものだ。一時の享楽、と言い切るには即物的すぎるけど、楽しいのは明らかだ。
しかし、祭りとは通り過ぎるものだ。そして得てして、そのお仕舞いはこんな風景だ。
わたしは夜空を見上げた。提灯の群れに遮られる向こう、ヒトの明かりの向こう側。純粋な夜空に踊る極彩色。
屋台の奥を仕切る、雑木林の奥から。ひゅるひゅる、ぽん。ぱらぱらと余韻を残す花びら。
花火だ。毎度毎度、美しく散るのは良いことだけど。
「仕様がないね……もう終わりか」
幾度か、花びらが咲いて散って。煌めく火花に哀愁すら感じるけど、今ここでは冗談にもならない。
わたしの“仕事”は、今から始まるのだし。
━━ドドン
花火が弧を描く。まっすぐの上昇を刻むわけでなく、ゆっくり、漫然と、ウェーキを描くように。
そして━━着弾。ここに、数ある屋台のど真ん中に。
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