本編 第一部

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世界とやらが発狂を決め込んだ時、わたしはまだわたしとして存在していなかった。 A.Dにして、幾万年か経ったあと。それはまだ、人間が人間として在った時代だ。 わたし━━コードとして与えられた名前の記すところ〈チェトリ〉と名付けられたわたしは、その人間によって産み出された「情報管理者(コードキーパー)」だ。 焼け野原に成り果てた屋台列、石畳みの焦げた様相は戦火を語るに十分だ。わたしは、そうして出来た瓦礫の合間を歩く。 抽象概念下に於ける情報構築は、つまり世界を作ることなのだから、こんな荒々しい有り様もきっちりと演出している。未だ燻る無数の火の手に、くしゃりと打ち砕かれた建材。 枯れ枝よろしく、小さな細い腕が所々見え隠れもしている。今回の想定は比較的小規模だし、祭りを囲う木々の先は何もない事になっているから、被害そのものは少ない。 人々が消えた事実、それ自体は変わらないけど。至るところに顔をだす、砕けた身体に制動の無い四肢、がらりと水気が抜け落ちた顔と相まって散らばる様は、ちょっとしたバースデーケーキにすら見えた。
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