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わたしはしかめ面を浮かべて右手を差し出す。識域に於ける権能が、その求めに応じて回転を始める。
「〈承認:トライコプター〉リフトオフ」
手のひらが俄に輝き、ちいさな光の粒子が立ち上る。粒子はふわふわと漂うことをせず、定められた位置に向かって急速に凝り固まった。
ローターと、それを支える支柱が三本。それぞれが慎ましげに回転翼を備え、支柱の合流する本体にはスキッドとプローブ、カメラ。
それらをダース単位で呼び出して、わたしはいつもの作業を始める事にした。生存者の確認と救出━━とは名ばかりの、残党狩りを。
「いつものように物理検索。“影”を見つけたら報告して、わたしが処理するから」
言語インターフェイスがあるわけではないので、録な返事は返ってこない。頷くような所作もないまま、人の頭サイズの無人機達はめいめいに飛び立った。
━━さて。世界が狂うに足る理由が幾つ在ったのか、わたしは知り得ていない。
というのも、わたしがロールアウトされた時点で、当事者たる人類がほとんど消え失せていたからだ。実際、彼らの声を直に聞くことは、わたしが存在を初めてから一度だって無かったのだし。
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