本編 第一部

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けれどアーカイブに残る情報と、わたし達の統制管理メインフレームが宣うオラクルにより、行動目的自体は明確に存在していた。曰く、人類種の保護と救済。 では何故、人類を救わねばならないのか。救済を求めるほど数を減らしたのか。メインフレームはこう言っていた。 『別種の知性体群による侵略』、と。ただそれだけ告げて、メインフレームはわたしを産み落とした。 ご丁寧に「コードキーパー」、読んで字のごとく“情報”を“管理”する者として。ならばここで、管理すべき情報とは何か。 それが指す事柄は、恐らく「全て」という意味合いが含まれている。なにせここは、草木や動物が勝手気ままに蠢くような、物理現実では無いからだ。 〈簡易レポート→→検索対象の発見、指示を乞う〉 「━━分かった、今行く」 視界に踊ったディスプレイ、瓦礫の山々。木霊することを拒むように、わたしの声は小さくそれらの中に消えていく。 わたしは歩みを進める。消えた屋台の群れ、薙ぎ倒される雑木林、その合間を器用に縫って。 必要な情報は、つまりそこに奴らが居るという事実だ。幾らか飛ばしたドローンは、その意味に於いて嘘をつかない。 わたしが指し示されたポイントに着くと、十数メートル上空を旋回していたドローンが飛び去った。それと同時に粉々になった瓦礫の下から黒い人型が立ち上がる。 ━━我々が名付けるところの、“影”と呼ばれる存在。データ上の劣化した残滓。人間を無理矢理象ったに過ぎない紛い物。 それは、わたし達の役割にも通ずる事柄だ。これらを打ちのめす為の話ではなく、こいつらが産まれ出ることについての。 わたしは幾つか立ち上がるそれらを認めると、右手に先ほどの物体を取り出す。緑色に塗り込められ、しかし宝石の様に輝く金棒。 わたしはその鈍器を振り上げると、即座に距離を詰める。“影”の数は三体、手間取るような戦力でもない。 わたわた、彼等が慌てるような素振りを見せる瞬間に、三振り。それぞれが的確に、人型の頭部を捉えて弾く。
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