第三部

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「━━と、つまりこれが、今の君の置かれている状況だ」 わたしは一通り話し終えると、彼━━仮の名として、ナナシと呼ぶ子供の反応を横目に映す。 案の定というか、なんとも呆けた表情で逆に拍子抜けさえしてしまう。纏ったままの毛布と相まって、かなりシュールな様子でもある。 情報量に対して、理解がまるで追い付いていない。演算処理に不具合があるのかも知れないけれど、きっと元々はこういう具合だったのだろう。 人間という生き物は。 「え、えっと……つまりここは元々の世界じゃなくて、電脳空間というか、仮想世界ということになるのですか?」 「ヴァーチャルというより、エミュレートされた世界と言うべきかな。出来る限り現実世界に近似して、なおかつ我々が戦いやすいフィールドとして機能させる。それが狙いだった」 「だった?」 「侵略者の猛攻に対処するには、元からある設定値など気にしている場合じゃなくなった、という事だ。だからわたしの様なあからさまにヴァーチャルな存在が生まれるし、地の利を得る為に空間内を弄ったりしている」 「……な、ならこの光景も、その一部ですか?」 びくびくしている様子は最初から何も変わらない。その対象がわたしから、周囲の変化と奇っ怪さにシフトしている以外は、なにも。 また一台、パレードの出し物が通りすぎていく。多くの人々は狂乱の坩堝といった感じで、荘厳に時には可笑しく仮装した一団を次々に見送った。 際どい衣装でダンスをきめる者もいれば、身の丈を越えた着ぐるみで練り歩く誰かもいる。それらが従える巨大なオブジェも多々種別があり、モチーフ自体が謎な建築も散見された。
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