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「もう、帰らないとだね」
月明かりを頼りに腕時計を確認した穂花が立ち上がる。
「あのさ…もしかして毎月ここにきて満月を見てるの?」
「うん、いつも来てるよ」
今日会ったのが初めてだから、いつもは俺が家に帰った後に穂花はここに来ているということだ。
「じゃあ、来月も一緒に見てもいい?」
「もちろんだよ。でもどうして?」
どうして、そう聞かれても答えなんて考えていなかった。
ただ、今日部活のミーティングがなかったら、この時間にこの土手を通らなかったら、俺はこのまま穂花のことを何も知らずにいたんだ。
そう思うと、なんだか自分が情けなくなって、悲しくなった。
「結局、高校に入ってからのこと何も話せなかっただろ。それに、こんな遅くに一人じゃ危ない」
それはただ何かを必死に隠そうとする言い訳にしか聞こえなかったけど、優しいねと言ってはにかむ穂花を見るとそれで良かったんだと思えた。
「じゃあ、今日はもう帰ろう」
静かな土手の一本道を、穂花の右隣に並んで歩き始める。
満月が、その形を変えないで二人の後をついてきた気がした。
fin.
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