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「ねぇ、大ちゃん。知ってる?片目が見えなくても、視界が半分見えなくなるわけじゃないんだよ」
「え、そうなのか?」
低い位置から土手を照らす月に向かって、穂花が手を伸ばす。
「これくらいかな、これくらいならちゃんと見える」
大きく見える月の前でゆっくり弧を描く細い腕を目で追った。
俺とは違う、白くて華奢な腕だった。
「だからね、私が見てる月もまん丸なんだよ」
そのまま伸ばした手の親指と人差し指で丸い形を作る。
「大ちゃんは?」
その呼びかけに、なんと答えていいかわからなかった。
だから、それが穂花の求める答えかはわからなかったけど、俺も同じように親指と人差し指で丸を作った。
「俺に見えてる月も丸いよ」
ちらりと横を見ると、穂花が小さく頷いていた。
「…うん、私たちが見てるのは満月だ」
決して半分の月ではない。
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