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②
――いつだっているんだ。こういうのが。
昔なら学生の時、今の会社の同僚にもいる。
たまに霊感があるなんて嘯いて、何階の給湯室がイヤだとか、非常階段にいるよね、なんて騒ぐ奴等。そういうのって“女”と相場が決まっていて、大抵モテない女なんだ。自分に魅力がナイもんだから、何らかの付加価値をつけようとしてやっているに他ならない。
この少女もどうせその類だろう。大の大人をからかうなんて、とても良い趣味とは言えない。大体なんだ、こんなガラガラの車内で俺の隣にピタリと座って。
「馬鹿にするのも大概にしろ」
彼はそう吐き捨てると席を立ってその場を立ち去ろうとする。
……が、
ここで本当に奇妙で気味の悪い事が起きた。
動けないのだ。
金縛り、なんてモノに遭った事はないが、あるとしたらこんな感じなのだろうか。
体中の筋肉が強張ったようになって指一本動かない。
「だから言ったのに」
少女は悲しそうに首を傾げて言った。
「おじさん、奇妙なモノが憑いてます。それなんとかしないと動けませんよ?」
体の自由が奪われているせいなのか、酷く息苦しい。喘ぐ様に息をするが上手く息が吸えない。胸苦しさと、焦りと、得たいの知れない気分の悪さで腹の奥の方がずぅー…っと冷えて、全身から汗が噴出した。
少女はぐぅん、と奇妙な立ち上がり方をすると、サラリーマンの前に立ち、微笑んで言った。あの甘ったるい香りが彼の鼻の奥にへばりつく。
「大丈夫、私が何とかしてあげる……」
「どう……する、つもり・・・なんだっ……!」
こんな嫌な感覚も、経験も初めてである。
大体こんな年端も行かない小娘に何が出来るって言うんだろう、彼のそんな言い知れない憤りと不安を無視して、彼女は根拠のない自信をありありと表情に映して瞬きもせず微笑むと言った。
「すぐ苦しくなくなるから。安心して……本当にすぐ」
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