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④
――そのサラリーマンは今ベッドの上にいる。
……病院の。
彼は窓の外を走る電車を見下ろしながらあの日にあった出来事を思案していた。
彼は、日頃のストレスとメタボリックもあいまって、虚血性心疾患で、電車内で倒れ救急車で病院に運ばれたのである。
その時、隣の車両から様子を見てオカシイと感じ、車掌に知らせて助けてくれたのはシャキシャキした老婆だったらしい。
彼の妻が病院へ来る前にわざわざ彼の下ろしてもらった駅を訪問して聞いてきたのよと、丸で倒れたあの日の現場に居合わせたかの様に話してくれた。
それから暫く入院することとなったが、ようよう起き上がれる様になってからのことだ。
多少暇を持て余していた彼は、あの倒れた日の奇妙な出来事を思い出していた。
あの助けてくれたであろう老婆の言っていた、11年前…そんな事件が本当にあったものか、と好奇心が湧いたのである。
携帯使用のできる場所で、ネットを使用して調べてみた所、11年前にかの電車で倒れて運ばれた女子高生がいた事を知った。
因みにその老婆の噂はニュースのまとめ記事ではなく、都市伝説みたいなモノを集めたサイトに書かれていた。
真相は計りかねるが、女子高生の関係者なのではないか、とまことしやかに囁かれていたが真相は定かではない。
具合が悪くなる直前に見た、現実と偶然と夢の折り重なった単なる白昼夢だったのか。
最後になるが。
医者に、失明の可能性もあったんですよ、と説明され、女子高生の指が目の前にあったのを思い出した時、彼がにわかにゾッとしたのは言うまでもない。
「きみょうなものがついてますよ」
彼女は今日もあの電車で誰かにそう言っているのだろうか。
まぁ、少なくとも彼が目に見えない存在がいると、信じるキッカケになった事件だったのは言うまでもないが。
(了)
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