1.Disconnect

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 椅子に深く座り込み、疲れた目を休ますように、頭を背もたれに乗っけ天井を仰いだ。少しの間の瞬きでさえ、網膜に映った時計は鬱陶しく思うほどに消えなかった。それよりも、眼球が脳みその中に飲み込まれるような埋没感が、網膜に映し出される時計の鬱陶しさを紛らわした。  もう夜中の1時になろうとしている。こんな日がずっと続いていたが、一つの節目が見えて安心できたのだ。サポートプログラムの完成とデバッグ作業終了で、プログラムの動作確認を残すだけとなった。  重々しくモニターへ目を移すと、メール通知が表示されていた。今どき電脳でのコミュニケーションで、メールという物は化石と化しつつあった。過疎化したメール文化を利用するものは、千里礼司、奴しかいない。俺の高校の時の友人であり、今は、フリージャーナリストとして活動している。不定期ではあるが電脳の危険性を伝える記事を書いているのだ。このメールは、その記事の手伝いの依頼だ。  礼司の親が電脳ネットの依存で、起きている時間は極僅かになるオーバーコネクターと呼ばれる症状になっていて、礼司はこれがキッカケで電脳を使わなくなっている。何かしらの電脳専用の資料を調べて欲しい時は、旧知の仲という事もあり俺を頼って来る。  『久々に仕事を頼む。いつもと同じ電脳専用ファイルの通常データ化と、書きかけ記事のテキストファイルが入ってる。それの感想も欲しい。データはお前の仕事場に届けておいた。報酬はいつもの方法で渡す』  大体こういうメールが、2~3ヶ月に一度のペースで届く。今回は間が空いて半年ぶりだが。仕事場に詰めっぱなしの俺としては、これは息抜きしているようなもんだ。  俺は荷物の届く集合ポストに行き、封筒に入ったUSBを手に取り、またデスクに戻る。  そのUSBをコンピューターが読み込み、モニターにファイル一覧が表示される。メールの内容通り、記事の書きかけと思われるテキストファイルと、“資料.eb.exe”が有った。  記事の書きかけは、暇を見つけて読むとして、この資料だ。電脳専用の実行可能形式ファイルだ。大体は自分の感覚に、直接信号を与える様プログラムされたものだ。実行ファイルその物があるパターンは、今回が初めてだ。大抵はネット上にある実行ファイルへのリンクなんだが、金か何かで買ったんだろう。
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