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「甘い香りがする」 「うん……、きっとしてると思った」 「俺の好きな、この世で俺だけが感じることの出来る甘い香り……」 そう、きっとその香りは誠悟にしかわからない。どんな香りが自分からしているのかわからないのが残念だ。 だけど誠悟を見ているとわかる。それはとても甘く、焦がれるほどの香りなのだと。 「ねえ、どんな匂い?南国のフルーツみたいな匂いなのかな?」 甘いといえば熟れた果実を連想する。でも誠悟は斜め上をじっと見て、首を振った。 「じゃあどんな?」 「うーん……。何ていうか……、鈴蘭みたいな……」 「鈴蘭の花?」 「違うよ。目の前の鈴蘭みたいな香り」 なんだ、それ。それじゃあ一生かかっても、鈴蘭にはわからないじゃないか。 でも誠悟が幸せそうに笑うから、きっとこの世で一番いい香りなのだとわかった。               おわり
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