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「鈴ちゃん、僕のパートナーが格好良いからって好きになっちゃだめだからね」 最後に笑いを含んだ、本気とも冗談ともわからない牽制をして、未知は教室を出て行った。 途端に憂鬱な気分がぶり返す。 首を隠すほど伸びた髪をいじり、切ることを禁止された日のことを思い出していた。 それは三ヶ月も前のことだった。 鈴蘭が帰宅すると、珍しくリビングに父がいた。 鈴蘭は中学に入学すると、今まで住んでいた大きな屋敷から、敷地内に建つこじんまりとした離れに居を移した。 それは星崎家に生まれるオメガのために建てられた離れだ。 星崎の本筋の先祖に、外国で生まれたオメガの女性が存在する。 祖父の祖父が娶った女性がその外国人のオメガだったそうだ。 彼女はドレスのデザイナーで、祖父の祖父とは運命で結ばれていたらしい。 これからは洋装の時代だと留学した先で運命の出会いを果たした、鈴蘭は祖父にそう教わった。 二人が本当に運命で結ばれていたのかどうはわからないが、彼女が星崎に嫁いだことで星崎家は今の名声を手に入れた。 本場のデザイナーが制作するドレスは当時の貴族達の間ですこぶる評判が良かったらしい。
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