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体育館裏のベンチで、鈴蘭はまだ花を咲かせる気配を見せない桜の木を見上げていた。 「鈴蘭!」 ここは誠悟との約束の場所、いつも昼休みに誠悟とここで待ち合わせをした。 やって来た誠悟に鈴蘭は少し寂しい気持ちで手を振った。 三年生はもう自由登校になっていて、しばらく昼休みを一緒に過ごしていなかった。 時々伊奈や相馬も混じり、楽しい一時を過ごしたこの場所。 あと何回ここに来る事があるだろう。 今日、登校する予定の誠悟とここで待ち合わせをした。 鈴蘭も誠悟も進学することが決まっている。 春になればもう別々の大学に通うのだ。 結局未知は復学することはなかった。 海外留学したらしいと誰かが噂していたけれど、それが本当かどうかは知らない。 星崎の仕事で社交場に何度か出かけることがあるたび、そこに未知の姿を探してみた。 でも結局一度も未知と出会うことはないままだ。 何かのパーティーで由井を見かけた時に尋ねようとしたが、他の客に邪魔されて話しかけることはできなかった。 しかし未知がいない毎日は当たり前になっていき、彼を思い出すことも次第に少なくなっていった。 どこか遠い空の下で、今も彼はきっと王様でいるのだろう。 未知にとって自分は全く必要な存在ではなかったのだ。 繋がらなくなった未知の携帯の電話番号。 それは今も消すことができない。
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