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「鈴蘭。この後はどうするの?」 帰り道、誠悟が鈴蘭に尋ねた。 「うん。どこかよって帰ろうか」 「じゃあさ、映画観ていかない?」 「いいよ」 この一年半、放課後誠悟とたくさんでかけた。 映画、ゲームセンター、ファストフード、今まで行ったことのない場所に誠悟は鈴蘭を連れて行ってくれた。 誠悟の父は腕のいいお医者様らしいが、開業医でも代々続く医者の家系でもなく、大学病院の勤務医だ。 誠悟は中学まで当たり前のように公立校に通っていた。 私学でもかなり学費の高いこの高校に入学したのは、特待生で学費免除が受けられたからだった。 優秀な生徒ばかりのアルファクラスでも、学費免除されるのはほんの数名だけ。 誠悟はアルファを絵に描いたような人間だった。 「ラブストーリーとホラー、どっちがいい?」 彼に尋ねられて鈴蘭はすかさず「ホラー」と答える。 「やっぱり。そう言うと思ったんだ」 誠悟は鞄の中からホラー映画のチケットを取りだした。 「あっ、これ、観たかったやつ!」 「だろ?」 クスクス小さく笑いながらと顔を見合わせる。 もうすっかりお互いの好みを理解するくらいのつきあいができていた。 誠悟という人は知れば知るほど魅力的な人だった。 正しい優しさを持っていて、気取らず人を楽しませる話術も持っている。 そして真っ直ぐに鈴蘭のことを好きでいてくれる。 運命の番として引きよせられたアルファとオメガは、お互いの見た目性格人間性なんて無視するように惹かれ合うと聞くけれど、誠悟にだったら運命なんか関係なくきっと好きになっただろう。 時おり見せる男らしい横顔に、鈴蘭はこっそりとみとれた。
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