6

5/18
前へ
/194ページ
次へ
「なんだろ…、痴話げんかかな…」 明らかに男同士の揉める声、一人は低い大人の男性だとわかる声をしているが、もう一人はそのいらだった喋り方と声の高さから自分達と同年代だと感じた。 そしてあの声、話し方───、鈴蘭は吸いよせられるように路地の奥へと歩を進めた。 「あっ、鈴…」 背後で誠悟が戸惑った声を上げたが、それよりも確かめなければならないことがある。 「しつこいぞ!酒の席での冗談を本気にするな!」 「はあっ!?なんだよ!そっちこそベタベタ僕の体を触ってたくせに…!今夜一晩相手してやるって、この僕が言っているんだよ!」 だんだんとその輪郭が見えてくる。 「ははっ…。お前、何様のつもりなんだ?身元もはっきりしない売春婦みたいなお前を、俺が本気で相手するとでも思ったか?」 男は絡みついていた青年を思いきり振り払う。 青年の白いシャツの胸元ははだけ、その滑らかな肌は露わになっていた。 華奢な体躯、小さな顔に見開かれた大きな瞳。 桃色の美しい唇は怒りにわなわなと震えていた。 「このっ!成金野郎!くたばっちまえ!!」 負け犬の遠吠えを男は笑って聞き流し大通りへと消えていく。 「未知……」 こんな汚い路地裏で、なぜ未知が男に媚びを売っているのだろう。 見下ろす鈴蘭を未知は、信じられないものでの見たかのように見上げた。
/194ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1988人が本棚に入れています
本棚に追加