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そんな場所に未知がいる。 自分が誰よりも気高いと信じて疑わなかった未知が。 足元の地面がぐらりと揺れるような眩暈に襲われた。 「鈴蘭、大丈夫!?」 誠悟に支えられながら、未知が店に戻っていく後ろ姿を見た。 腹に響く音楽と、酒とタバコと安い香水の匂い。 暗い店内は一瞬レーザー装置から放たれる光に、その正体を露わにする。 男とも女とも判断つかない人達のシルエットが、もつれ絡みあい蠢いていた。 「うっ…うぇぇっ……」 突然の吐き気に襲われ鈴蘭はその場にしゃがみ込んだ。 「鈴!鈴…!しっかりしろ!早くここから出よう…!」 誠悟は鈴蘭を表通りへと引きずり出す。 「はあっ…、はっ…はっ…」 「鈴蘭、水…」 「ありがとう…」 あれがオメガの帰る場所なのか。 本当にあんなところが…。 未知はなぜあそこにいた…? しばらく冷や汗が止まらなかったが、誠悟が優しく背をなでる手のひらに、やっとのことで落ち着きを取り戻し鈴蘭はポケットからスマートフォンを出した。 画面をタップし耳にあてると三コールもしないで相手に繋がった。 『もしもし、鈴?』 「椿ちゃん、由井さんの連絡先って知ってる?」 九条氏は、そして由井は、未知が置かれている現状を知っているのだろうか。 『由井って…あの由井さん?』 「未知が見つかったんだ」 鈴蘭は逸る気持ちを抑えて、できるだけ簡潔に事情を説明した。 『未知が…。わかった。多分、いや、絶対連絡つくと思うから、鈴達は早く家に帰りな』 腕時計を見ると、時刻は午後十時をまわっていた。 制服姿でこんな場所をうろついていれば補導されてしまうかもしれない。 それでもここを動く気にはなれない。
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