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「……やだ」 『鈴?』 「嫌だ!こんなの僕だけのんきに家に帰れるわけないだろ…!未知が…、未知があそこから助け出されるまで、僕、家には帰らないから……」 怒り、悲しみ、絶望、なぜこの世にオメガという性が存在するのか。 ぐちゃぐちゃと脳内が混乱していた。 自分の中に流れる血に酷く吐き気がする。 こんな血、オメガの血なんて世界中からなくなってしまえばいい。 熱い涙が頬を濡らしていた。 「鈴蘭…」 誠悟の腕に抱きしめられながら、彼の肩越しに見えるのは星崎の直営店だった。 夜でも煌びやかな表通り。 人々は夜はまだこれからだと着飾り笑いながら歩いている。 いくつものブランドショップのショーウインドウが車道を挟んだ向こう側に見えた。 豊かなこの国を表したような光景。 なのにひとつ裏に入ってしまえば未だ苦しむ人達がいる。 『鈴、今どこにいる?どこか入れそうな店はある?』 椿が焦ったように早口で尋ねた。 「今、星崎のドレスが見える。僕がこの前着たドレス。椿ちゃん…、僕、あそこで待ってるから…、早く…来て!未知を助けて…」 『…わかった、すぐに行く』
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