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ショーウインドウの中には鈴蘭をイメージした淡い水色のパーティードレスが飾られていた。 マネキンの首には華奢な細工の首飾り。 これのデザイン違いの首輪を鈴蘭はつけて人前に出た。 嫌だ嫌だと思っていた星崎の仕事。 オメガの香りを売り物にして、オメガの体をマネキン代わりにして、そんな家が嫌だった。 でもあの場所を見て思った。 自分は今まで大事に守られてきたのだと。 椿に、家族に、誠悟に、相馬や伊奈、たくさんの人達に守られて今の鈴蘭がいる。 ぼんやりとドレスの光沢に目を奪われていると、ぽんと肩を叩かれた。 「鈴っ…」 「椿ちゃん…」 あまりのショックに時間の流れがわからなくなっていたらしい。 スマートフォンを確認すると電話をかけてから十五分が過ぎていた。 「椿ちゃん、未知…、未知はあっち…」 椿の手を引き裏通りに連れて行こうとすると、逆に椿に腕を引かれた。 「鈴は行かなくてもいい」 「え…、なんで…」 自分が行かなければ誰が未知を助け出すというのだ。 「鈴蘭。由井が行ったから大丈夫だ」 椿の隣で、いつからいたのか伏見が低い声で言った。 「伏見さん…」 「私からすぐに由井に連絡を取った。先ほど九条の人間が行って未知を保護したと」 「そう…」 ほっと安堵すると急に膝の力が抜け、鈴蘭はその場に崩れた。 「鈴っ」 「誠悟…」 助けを求めるように腕を伸ばすと、誠悟が体を引き起こしてくれた。 「さあ、帰りましょう。君も家まで送ります」 伏見は特別なことは何も起きなかったかのような、ただ、夜遊びに興じる恋人達に呆れただけみたいな顔をして先に行ってしまう。 「ほら、帰るよ。鈴」 「椿ちゃん…」 大人達は未知のことに何ひとつショックも感傷もないように振る舞うが、鈴蘭の心は未だあの裏通りに置いて行かれているような、そんな気分が抜けきらなかった。
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