6

13/18
前へ
/194ページ
次へ
「単刀直入に言うと、未知はね…、九条氏の本当の孫ではありません」 「えっ」 あまりの驚きに指先が滑り、床に落ちたカップから白いミルクが絨毯に染みを広げた。 「あっ、鈴、大丈夫?やけどしてない?雑巾ってどこにあったっけ…」 椿は由井の言葉にひとつの動揺も見せず、ランドリールームへと姿を消した。 きっと椿はすでにこの事実を承知していたのだ。 「嘘でしょ…」 鈴蘭やクラスメイト達には、九条と未知は孫を溺愛する祖父とその愛情に甘えきった孫として映っていた。 その関係に一寸の疑問など感じる隙はなかったのだ。 「九条家にオメガの血は一滴も混ざっていないのですよ」 もう何も言い返すことの出来ない鈴蘭に、由井はのんびりと思いで語りを始める。 「九条氏が恵まれないオメガの人達のために慈善団体を運営しているのはご存じですよね。パーティーの夜もあなたは見たはずだ。彼の周りに寄り添う美しいオメガ達を…。あのオメガの者達は九条氏の愛人なんかではありません」 九条に関する噂は色々と囁かれている。 オメガ贔屓だの、オメガの愛人がたくさんいるだの、あの夜だってそうだ。 九条に背後に控えている美しいオメガ達を、招待客が好奇の視線で見ていた。 「彼らはね、捨てられたオメガです。力と金のあるアルファ達に騙され、または買われ、そして好きなように弄ばれ飽きたら何の躊躇もなく捨てられる。彼らの中には望みもしないのに無理やりうなじに噛み痕をつけられた者もいる。そういう人達が救いを求めて逃げてくる施設も九条氏は運営しています」
/194ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1988人が本棚に入れています
本棚に追加