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「彼女はとても賢く美しかった。そして運命ではないけれど、一生を共にしようと決めた男性もいた。残念ながら彼はアルファではなく、オメガの彼女と番になることはできない。ねえ、星崎君…。なぜ番になれるのは、アルファとオメガだけなのでしょうね…。ベータとオメガ、オメガとオメガだって番になれてもいいのに、とは思いませんか…」 雑巾を手に戻ってきた椿をちらりと見て、由井は物憂げに微笑んだ。 「はい…」 きっと由井は椿のことが好きだったのではないか、鈴蘭はなぜかそう確信した。 椿も由井に惹かれたことがあったに違いない。 二人の間には以前親しかった者達が醸し出す空気感がある。 「ふふっ…」 由井の両腕が伸びてきて、鈴蘭の頬を覆った。 「そんな悲しい顔しないで…?」 自分が今どんな顔をしているのかわからないが、由井の胸の内にいつの間にか共感している自分がいる。 由井は誰も愛さない人のように思っていたけれど、愛さないのではなくて、もしかしたら今もたったひとりを想い続けているのかもしれない。 運命ではないけれど、きっと、もっと恋しくて愛しい気持ちを彼は知っているのだと感じた。
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