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「そうそう、話を元に戻しましょう…。その彼女は九条氏の秘書ですから、公の華やかな場所にもついて行くこともある。そういう場所で彼女はよくないアルファの男に目をつけられた。金と力があり、オメガをアルファの玩具としてしか見ない男でした。九条氏の使いでその男の元を訪れた彼女を、彼は無理やりに襲った」 「まさか…」 鈴蘭は目を見開いた。 まさかそれが未知の出生の秘密。 由井は瞳を逸らさずに頷く。 「そう。その時身籠もったのが未知です。九条氏はね、彼女をとても愛していた。賢くて努力を惜しまないオメガの彼女のことを実の娘のように思っていたそうですよ。その事件が起こり、彼女は姿を消した。婚約者の男性に一方的に別れを告げ、一人きりで未知を生んだ。とても苦労をしたのでしょうね…。九条氏がやっと行方を探し出した時、彼女の体はボロボロで産後の肥立ちが良くなく亡くなっていました。彼女は施設で育ったため身よりがなく、未知も彼女と同じように施設にいた。そして九条氏の次男、つまり未知の育ての父親、彼が子種が造れない体だとわかり未知を養子として引き取ることに決めたのです」 そこまで話すと由井は喉が渇いたのか再びカップに口をつけた。 由井が話した事実に全く実感がわかず、鈴蘭は優雅に紅茶を啜る彼の姿を夢の中にいるような気分で眺めた。 「あの日、未知が君を陥れようとした夜、九条氏は未知に事実を告げました。それまで未知は、自分の出生の秘密を知らず、自分が九条の人間であると疑いもせず育ってきた。九条氏は未知に知って欲しかったのです。彼の生みの母親がどれだけ立派な人間であったのかを、彼女のように未知にもなってほしかった。でも…九条氏は今まで未知を甘やかしすぎた。未知には何も伝わらなかった」 残念だ、と由井は空になったカップを置き立ち上がった。
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