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「由井さん…!」 立ち去ろうとする由井の腕を取り、その瞳を見上げる。 由井の瞳からは何の感情も感じ取れない。 由井が尊敬しているのは九条であり、未知のことは些末なことなのだ、いや、同じオメガである故に、未知の行いを許せずにいるのかもしれない。 でも、どうしても聞かずにはいられなかった。 「もし…、もし、僕が…未知を怒らせなかったら…」 あの夜何も起こらなかったら、今も未知は九条の孫として自信に満ちた人生を送っていたのでは。 しかし由井はゆるゆると頭を振った。 「いいえ。このことは未知が成人するまでには伝えるはずでした。いつまでも隠しきれることではない。実際、直己様は感づいておられた。未知がこの事実を受け入れられなかったのは、そういうふうに育ててしまったこちらの落ち度。君が気にすることなど何一つない」 由井はぽんと鈴蘭の頭を撫でた。 今まで黙って話を聞いていた椿も、痛ましげな顔で鈴蘭を見ている。 「鈴が気にすることじゃない」 でも、だけど───。 「運命とは、時に人の人生を狂わせるもの。それだけです」 するりと鈴蘭の髪を撫で、由井は振り返らずに去って行った。
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