6

18/18
前へ
/194ページ
次へ
ピピッ、と車のロックを解除する音がやたら大きく響いた。 「由井」 車の影の暗闇から姿を現したのは、星崎の第一秘書である伏見だ。 由井は一瞬目を見張ったが、すぐに微笑みながら伏見の肩に手をかけた。 「伏見さん、いかがなされたのです」 堅苦しい口調とは裏腹に由井は誘うように伏見の首に腕を絡めた。 「鈴蘭はどうだった…」 「さあ、どうでしょうね。あなたは鈴蘭の教育係も兼任していらっしゃるのですか?だったら慰めてあげてはどう?昔、椿にしてあげたように。その優しさで、僕から椿を奪ったように…」 「由井……」 「ふふ…。あなたでもそんな情けない顔をされるのですね。僕とつきあっていた頃はそんな顔見せたこともなかったのに…」 伏見の首から腕を離し、由井は車のドアを開けた。 「ねえ、伏見さん。あなた、なぜ椿と番にならないのですか?もしかして、僕に遠慮してですか…」 伏見は由井の問いには答えず、ぎゅっと唇を真一文字に結んだ。 由井は伏見の真意を探るようにじっと瞳を見つめた後、そっと視線を彼からそらし溜息をついた。 由井と伏見、そして椿の間には目に見えない糸が絡まり合っている。 由井はそれをすっかり裁ち切ることができずにいた。 「あなたは…やっぱり優しい人だね…」 由井の呟きはドアの開閉音にかき消された。
/194ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1988人が本棚に入れています
本棚に追加