7

2/32
前へ
/194ページ
次へ
制服に腕を通すのも今日が最後になる。 そう思うと、この忌々しいグリーンのネクタイも急に愛着深くなるから不思議だ。 鈴蘭は鏡に映る自分の姿をどこか他人を見るような目で見つめた。 高校入学当時には短かった髪が、今では肩にかかる程度の長さで揃えられている。 密度の濃い睫毛は頬に影を落とし、潤みがちな瞳に桜色の唇──、いつの間に自分はこんなにも中性的な容姿になってしまったのだろう。 そしてそれを良しとしている自分がいた。 「鈴蘭、ちょっといいかな」 突然降ってわいた声にびくりと肩を大きく揺らし、鈴蘭は振り返った。 そこには滅多なことではここに訪れることのない父親の姿があった。 「あ……、おはよう」 「ああ、おはよう」 父がこの離れに来るときは必ず星崎のオメガに課せられた仕事の話があるときだ。 もうすぐ桜の季節。 夜桜見物がてらの夜会にでも出席させられるのだろうか、と鈴蘭は予想をつけつつ、父親と向かい合った。
/194ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1988人が本棚に入れています
本棚に追加