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「鈴蘭、お前ももう高校を卒業する歳になったな」 「はい」 いつもと違い、父親はかしこまった態度を見せた。 「まだこれから大学に通う学生とはいえ、もう立派な大人だ」 「はい……」 これまで父は、鈴蘭に対して特別父親らしいところを見せることはなかった。 それは鈴蘭の兄や姉に対しても同じで、きっと彼は自分の子供への愛情や愛着が希薄な人間なのだろうと思っていた。 そういう意味でアルファの兄姉達と分け隔てなく育ててくれた父親へ鈴蘭はそれなりの敬意を持っている。 もしかして今日というハレの日に、珍しく彼なりの父親らしさを見せにやってきたのだろうか。 鈴蘭の胸は僅かにときめいた。 しかし──、 「鈴蘭、星崎のオメガの継承者を産んではくれないか」 父の口から出た言葉は鈴蘭の予想とは大きく違っていた。 父は深々と頭を下げた。 「こんなこと、まだ十八歳のお前に頼むのはおかしいとわかっている。それでも──、もう星崎のオメガはお前しか残っていないのだ……。わかるな、鈴蘭。これは星崎ブランドのためだ」 確かに星崎で一番若いオメガは鈴蘭だった。 鈴蘭以降、いまだ一人も星崎家にオメガ性の人間は生まれていない。 オメガシリーズは星崎のヒットシリーズだ。 もし新しいオメガが生まれなければ、『鈴蘭』が星崎のオメガシリーズ最後の商品となってしまう。
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