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ずらりと並べられたパイプ椅子のひとつに腰を下ろし、鈴蘭は光の中に舞うほこりをぼんやりと見つめていた。
幼稚舎から高校までこの学園に在籍している鈴蘭にとって、卒業式だからといって特に感慨深い思いはそれほどなく、やっとオメガクラスという狭い箱から出て自由になれるんだ、という気持ちが大きい。
他の面々も同じように、退屈そうに式の成り行きを見守っていた。
その中にやはり未知だけがいない。
まさか未知を残して自分が先にこの学園を去るなんて思いもしなかった。
それだけが心残りだ。
自分の心の中の大切な何かひとつを、この学園に置き去りにして卒業していくようなそんな不安な感覚。
正直、卒業するということにあまり実感がわかなかった。
未知はいなくても例年通り、九条氏からの祝辞の電報が読み上げられる。
あれから未知がどうなったのか、誰に聞いても教えてくれなかった。
「卒業生答辞、オメガクラス、相馬類」
突然よく知った名前がスピーカーから流れ、鈴蘭ははっと壇上を見上げた。
毎年、答辞は学年トップの生徒が代表となる。
式の予行で相馬の名前が告げられた時には、生徒の多くがざわついていた。
まさかオメガクラスの生徒がトップの成績をおさめるとは誰ひとりとして予想していなかったのだ。
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